実践 地域工務店による「生涯顧客」のつくり方

新建ハウジングプラスワン1・2月合併号

第5回 ウェディング事業で「エンターテイメント企業」に

第5回 ウェディング事業で「エンターテイメント企業」に

富山県高岡市の地域工務店・プロデュース。「お客様や地元の人たちとの絆を深め、生涯にわたって本気でお付き合いしていく」 という新川篤志社長の信念のもと、自然派生的にインテリア・家具、カフェ・レストラン、ウェディング、まちづくりと事業領 域を拡大。限られた商圏の中で、一人ひとりの顧客との関係性の密度を極限まで高めながら、地域の人たちに対して豊かなライ フスタイルを提供していく経営手法が注目を集める。縮む住宅産業市場で、企業の二極化と選別淘汰が加速する中、新川社長は 「小さな工務店こそ、いますぐ『生涯顧客』をつくる仕組みを整えなければ生き残りの道はない」と訴える。 全6回の本連載では、「志を同じくする全国の仲間とともに“工務店ブランド” を確立しながら、それぞれの地で、地元の人たち のために将来にわたって経営を持続していこう」と呼びかける新川社長が、生涯顧客をつくる実践的ノウハウを解説する。第5 回は、コアなファンをつくると同時に、顧客の暮らしづくりの起点から関わることができ、さらにスタッフの提案力向上やモチ ベーションアップにもつながる「ウェディングプロデュース」事業について解説する。(編集部)

建築の魅力がファン化のスタート

 続いてウェディングプロデュース事業についてご説明しま す。いまは、挙式・披露宴から衣装までを含む結婚式に関わる 全てのサービスをトータルで展開していますが、当初、ウェデ ィングは、まったく想定していない事業でした。もともとは、 「KHEIR(ケイル)」の建物とスタッフ、料理が生み出す魅力か ら始まった事業だと思っています。古い工場をリノベーション したケイルは、オープン直後から、富山県内にはなかなかない、 おしゃれな建物と空間で、明るい笑顔の気持ちいいスタッフが 確かな素材を使ったおいしい料理を提供するお店として評判に なりました。
 そうしたところ、そのうちにお店のファンになってくださっ たお客様から、結婚式の披露宴や二次会のパーティー会場とし て貸切にしてくれないかという依頼が相次ぐようになったので す。すると最初、私たちは、場所を貸切にして簡単な会場設営 をして、お料理を提供するといったことぐらいしかしていなか ったのですが、お客様たちがとにかくすごくて、仲間でやって きて自ら装飾をしたり、生バンドをしたり、とても盛り上がり、 そうすると今度は、「あのおしゃれで面白い空間でイベントや パーティーをすると楽しいよ」といった評判がどんどん広がっ ていって、いつの間にか週末はほとんど貸切のパーティーで埋 まるような状況になってきたんです。

しあわせと笑顔の創造に垣根なし

 そうなると、今度は私たちがお客様に触発され、もともと企 業としてのミッションとして「しあわせと笑顔の創造」を掲げ ていますから、もっとクオリティーを上げて、もっとお客様の 満足を高められるんじゃないかという気持ちになってきて、そ こからウェディングを事業として行っていこうと方針が決まっ たのです。
 実際にやってみると、これまで「家をつくることが仕事じゃ ない、ストーリーをつくることが仕事なんだ」と徹底してきた 企業風土がそのまま生かされたと実感しています。自分の会社 ながら、うちのスタッフたちのお客様への想いやもてなしの心、やり切る姿勢は、本当に素晴らしいと感謝しています。とにか く建物が広いので、様々な演出が可能という利点が前提として あるのですが、例えばアウトドア好きなカップルの結婚式では、 スタッフのだれかが、どこかしらか本物のカヌーや流木のよう なものを持ち込んで演出するなど、主役の2人もゲストたちも すごく喜んでくれて、いまフランクな雰囲気で披露宴のパーテ ィーをしたいと望む若者の間では、県内で絶大な人気を誇って います。年間60~80組を手掛けていて、ダブルヘッダーの日 もあるほどです。

家づくりの企画力・提案力も向上

 ウェディングプロデュースに関わる事業では、全てのスタッ フが「一生に一回の日を最高の日にしてあげたい」と考えてい ます。ここにかける気持ちは「一生で最大の買物に最高の物を 届けたい」という家づくりへの想いとまったく一緒です。ウェディング事業が軌道に乗ったのも、家づくりにおいて「モノ」 ではなく「コト」にこだわり続けてきた成果だと思っています。 披露宴やパーティーの打ち合わせでは、スタッフから、どんど んユニークなアイデアが上がってきます。ウェディング事業を手掛け始めてから、当社の暮らしづくりや家づくりの企画力・ 提案力は確実に磨きがかかり、さらに「エンターテイメント」 という新たな魅力的なエッセンスも加わったと感じています。 私は、暮らしづくりや地域(まち)づくりに工務店が主体的に 関わり、生涯顧客を創造するために複合的な事業展開を行って いく際、エンターテイメント企業に生まれ変わることが、成功 への最も近いルートだと考えています。

結婚式は生涯顧客化の最高のタイミング

 それから最も重要なことですが、「生涯顧客」の創出において、 結婚式は最高のタイミングです。もちろん結婚してすぐ新居を 建築ということにはならないかもしれませんが、マンションで あっても家具やインテリアは提案できますし、なにより、私た ちがお客様の結婚式の日を「生涯忘れられない最高の一日」に するお手伝いをできたら、お客様は当社のコアなファンになっ てくれます。実際に、いつでも気軽に足を運べるケイルという 器(店舗)が常に身近にあることも相乗効果となり、お客様は 生涯にわたって、家づくりや家具購入、リフォームなど全ての 場面(タイミング)で、必ず「結婚式の日を素晴らしい一日に してくれた」と当社の存在を思い浮かべてくれるはずです。それは披露宴にいらっしゃってくれたゲストの方たちも同じだと私は考えています。
 魅力的な会場(建築)をつくる力、魅力的なコンテンツ(企 画)を生み出す力、魅力的な演出、お客様をもてなす心、実は ウェディングプロデュース事業をスタート・成功させるために 大切な要素を、工務店はすでに備えているのです。
 本連載最終回となる次回は、地域工務店による生涯顧客づく りにとって最も重要と言える人材を育てる方法と、生涯顧客化を仕組みとして継続的に機能させていくノウハウを解説します。