第3回「まちづくり」で工務店の本領発揮
工務店の総合的事業展開の最終形(理想形)として、まちづ くり(地域活性化)に主体的に携わることを目指すべきだと考 えています。まちづくりにおいて、これからの工務店にとって 欠かせない「地域貢献」を果たし、地域の人たちに喜ばれなが ら、工務店がその本領を発揮し、ビジネス的な成長も見込める 最適な切り口は、やはり空き家など既存ストックの活用にある と思います。 その一つが高岡市内で最も古い町で、かつて「高岡鋳物」発 祥の地として大いに栄えた「金屋町」です。今も格子造りの家々 が軒を並べ、昔懐かしい雰囲気の風情あるまち並みは、映画や テレビの舞台としても登場していて、2012年には国の重要伝 統的建造物群保存地区に選定されています。ただし、このエリ アも暮らしの場所として見てみれば、空き家率が20%を超え、 さらに住民の高齢化も著しく、活性化は深刻な課題です。 実際に、まちづくりに携わってみて痛感したのは、プロジェ クトをスピーディーに進められる実務能力を備えたプレーヤー の不在です。地元住民の代表の方や識者など地域再生に対する 熱い想いや理想だけでは、プロジェクトは具体的には動きませ ん。行政や金融機関との折衝・調整、ビジョンの策定、設計・ 建築工事、不動産管理、プロモーション・ブランディングなど の実務を回すことが実はとても重要なのです。私は自らの経験 から、この役割は地域工務店こそが打ってつけだと確信してい ます。 もう一つのプロジェクトは、当社の本社のすぐ近くで、私の出身地でもある射水市内にある「内川地区(旧新湊市)」で進 めています。ここは海に近い港町で、まちの真ん中を運河が流 れ、そこに係留された漁船が並び、独特の雰囲気のある風景が 広がっています。ここも金屋町などと同じで特に若者の流出が 目立ち、あらゆる地方のまちが同様だとは思うのですが、地域 活性化が喫緊の課題となっています。 ここでも私は、地元の人たちが中心になってつくるNPO水 辺のまち新湊のメンバーとして携わっています。ここではまず、 かつて地元の漁師さんたちが作業小屋として利用していた「番 屋」を活性化の拠点の位置づけでカフェやギャラリーが入る施 設にリノベーションをしたのですが、コンセプトメイクから設 計、施工まで当社が行い、現在はカフェの運営も引き受けてい ます。 まちづくりの事業では、工務店の持つポテンシャルがフルに 生かされます。特に、本業によって蓄積されている豊富な人脈 や地域のネットワークを、まちづくりの計画段階から建築家や デザイナー、アーティスト、投資家、行政関係者ら、さまざま な人を呼び込むことに生かすことができるほか、移住した人た ちと、もともとまちに住む人たちが自然に打ち解けるような仕 掛け(地域イベントの開催など)では、工務店の企画力が生き るのです。こうした仕掛けは、実際にやってみると、実は本業 の家づくりで行っていることの延長として、あまり大きな負荷 なくスムーズにできることも多いです。
全6回の本連載では、「志を同じくする全国の仲間とともに“工務店ブランド” を確立しながら、それぞれの地で、地元の人 たちのために将来にわたって経営を持続していこう」と呼びかける新川社長が、生涯顧客をつくる実践的ノウハウを解説する。 第3回は、工務店による総合的事業展開の最終形とも言える「まちづくり」について解説する。(編集部)
地域貢献とビジネス的な成長を両立
地域工務店が、そうした切り口からまちづくりに携わるメリ ットは、建物改修工事の受注といった実需を除いても、企業の イメージアップ、ブランドの浸透、幅広い分野に及ぶネットワ ークの構築、社員のモチベーションアップ、担い手(若手)の 確保など数えあげたらきりがありません。しかも当社が提唱す る総合的事業展開の道筋をたどれば、それは無理をしたり背伸 びしたりする必要はなく、自然な流れとして必然的に手掛けら れるものです。今回は、実際に当社が地元で携わっているまち づくりプロジェクトの事例を紹介します。
市内最古のまちで空き家を再生
私は4年前から、同地区の活性化を目指すNPO金屋町元気 プロジェクトの核メンバーとして携わっています。空き家の所 有者に対するアンケート調査では、「売りたい」「貸したい」と いったニーズが明らかになったものの、同時に建物の老朽化が ネックになっていることも判明しました。そこで、空き家の建 築的な問題点を解消(改修・補修)しながら、エリア外から若 い人を呼び込んで定住につなげ、まちに元気と活気を取り戻す プロジェクトを推進する方針が固まりました。
工務店の実務能力が不可欠
金屋町では、まちづくりのファーストステップとして、移住・ 定住に向けて“お試し” の生活体験ができるゲストハウス兼モ デルハウスを整備します。町家を模して新築するものと築100 年の町家を復元するものと2棟あるのですが、いずれも当社が 施工中で来年3月にオープン予定です。設計は、次世代の担い 手育成の思いも込めて、地元富山大学で建築を学ぶ学生と共同 で行いました。こうした学生とのコラボのコーディネートはも ちろんですが、今後、移住者が地元の生活にうまくなじんでい くためのコミュニティーづくりなども全て当社が主体的に手掛 けていく考えです。
私は、まちづくりはスピード感が命だと考えているので、ゲ ストハウス兼モデルハウスの整備と並行して、実際にはNPO が行うことになるのですが、エリア内の町家(中古住宅)の買 取・リノベ・再販(もしくは賃貸)も積極的に進め、ビジネス としても短期間で軌道に乗せる計画です。いま金屋町は、デザ イナーや工芸家、クラフト作家といった人たちに注目され、少 数ではあるものの町家を改修してミニ工房やショップを開く動 きも生まれつつあるので、こうした特徴を踏まえたブランディ ングや仕掛けをしていきたいと策を練っています。
漁師町に活性化の拠点「番屋カフェ」
ここは金屋町のような重伝建地区ではなく、築30~40年ほ どの住宅が立ち並ぶ典型的な昭和のまちに並みで、NPOの理 事長さんの強い希望もあり、当社が金屋町以上に主体的にまち づくりに関与しています。私が、まちづくりの任意団体を主宰 し、毎月1回、地元の人たちと一緒にミーティングを行いなが ら、どんなまちにしていきたいかをソフトの部分も含めて検討 しています。このまちでは、富山県内最多の13本の曳山が練り回って盛り上がる「新湊曳山まつり」の伝統が受け継がれて いることから、お祭りに生活や文化の視点からフォーカスしな がら、「子どもたちの声が響き、いろいろな人が交流するまち」 を目指したいと考えています。
ここでも、重要な鍵を握るのは建築・不動産的な課題への対 応や事業(ビジネス)として成立させることです。地元工務店 が携わるメリットとしてスピード感を発揮していきます。当社 が直接、空き家の買取・リノベ・再販(もしくは賃貸)を行い ます。すでに買取は進めていて、年に10棟のペースを目標に しています。幸い地元の金融機関などが、こうした事業に対し て、非常に協力的で、これは力強い後押しです。
工務店がまちの中心に
まちに人が集まり、にぎわいが生まれ、持続的なコミュニテ ィーが再生されれば、そこではまさに家守り、まち守りの工務 店の役割が待っているのです。工務店がまちの中心に̶̶。こ れこそが私の思い描く「究極の生涯顧客化」であるかもしれま せん。地域工務店が避けて通れないストックビジネスをナチュ ラルな流れで事業化しながら、地域の人たちと触れ合いながら 大きなやりがいを感じられるまちづくりをやらない手はありま せん。数多くの地方都市が、共通して抱える課題であるという ことは、そこで事業を営むあらゆる地域工務店に共通するビジ ネスチャンスでもあるわけです。
次回は、家具・ウェディング事業についてお話します。